「それでは、お手を拝借! そーれ、シャシャシャン、シャシャシャン、シャシャ
シャン、シャン!」
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〜呼魂太鼓・宗家、吉田明弘さん〜 |
小雪がちらつく乾いた空に、威勢のいい手拍子と太鼓の音が響き渡る。
正月2日、初詣客でにぎわう布施弁天境内で、毎年恒例『打ち初め奉納太鼓』の演
奏があった。演じたのは、柏市増尾に本拠地を置く〈呼魂太鼓〉の面々。小学生から
社会人まで総勢30数名が揃いの半纏に身を包み、景気のよい太鼓の音色を響かせ
た。
メンバーを率いるのは、呼魂太鼓・宗家、吉田明弘(47)さん。白髪混じりのス
ポーツ刈り、長身でがっしりとした体型。一見、ちょっと強面の吉田さんだが、その
第一印象とは裏腹に、集まったお客さんたちに語りかける笑顔の優しいこと! 観客
たちもすっかりうちとけ、折からの寒さに身を縮めながらも、メンバーたちの演奏に
最後まで耳を傾けていた。
「今年でこの奉納太鼓も16回目になるんです」。演奏を終えた吉田さんは、感慨
深げにつぶやく。結成から18年。今では会員数も80人を越え、増尾道場をはじめ
市内数カ所で教室を開き、後身の指導に忙しい毎日を過ごしているという。
1955年、東京品川生まれの吉田さんと太鼓の出会いは、小学校時代にまでさか
のぼる。鼓笛隊でバチを握ったのがきっかけとなり、その後も吹奏楽団、管弦楽団で
打楽器を経験。大学卒業後、市内中学校の音楽の教師となった後も太鼓道に励み、1
984年、教職を辞して〈呼魂太鼓〉を結成する。
「当時、すでに10数人の門下生がいて、片手間に太鼓を教えるというわけにはい
かなくなっていたんです。いろいろ考えた末、教師に代わりはいても太鼓の師匠の代
わりはいないと、この道1本でいくことに決めました。あの頃は将来への不安とかい
うことより、和太鼓の魅力を多くの人に知ってもらいたい、誰でも手の出せる身近な
楽器として根付かせたいとの思いでいっぱいでした。もちろん、その思いは今も変わ
りませんが・・・」と話す吉田さん。「10周年までは、ただただ駆け足で走り続け
てきたという感じです」。
そんな呼魂太鼓に、大きな転機が訪れた。1995年、日米文化交流協会からの話
を受け、『日米交流ミッション・グランドフィナーレ』に参加、アトランタ及び
ニューオリンズへ遠征することになったのだ。メンバーの不安をよそに、公演は大盛
況。アトランタでは観客全員のスタンディング・オベーションを受け、ニューオリン
ズでは地元のジャズバンドと観客を巻き込んでのジャムセッションを展開した。
また同年、馬頭琴のチ・ボラグ氏、ジャズトランペットの原朋直氏、津軽三味線の
沼倉信夫氏等とも競演の機会を得た。1996年及び1998年には、ロサンゼルス
で『US−JAPAN EXPO』に出演するなど、その後の呼魂太鼓の活動の広が
りへ大きな一歩を踏み出すきっかけとなった。
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東口Wデッキ上でのオープニング演奏(紅竜昇天)
中央の白い太鼓は手久野太鼓の縄文太鼓
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また、その頃、宗家・吉田さんにとって、もうひとつの新たな出会いと発見があっ
た。市内の手話サークル20周年イベントのゲストとして、出演依頼が舞い込んだの
だ。
「正直言って、最初は大丈夫かなと思いました。果たして、耳の聞こえない人に楽し
んでいただけるのだろうかと・・・」。けれど、結果は大成功! 観客たちは太鼓の
演奏を目で見て、その鼓動を身体で感じて、存分に楽しんでくれたという。
「耳は聞こえなくても、太鼓の振動はしっかり感じとれる。そのことで互いに感動
を共有できると知ったときには、本当にうれしかった。そして、耳の聞こえない人に
も演奏できるんじゃないかと、その時思ったわけです」。
以来、ろうの人たちの太鼓グループ〈竜の子会〉を結成。現在も6人のメンバーが
毎週日曜日、吉田先生の元に集まり、稽古に励んでいる。「耳の聞こえない人に、ご
まかしは利きませんからね。誰もが理解できるような教授方法を考えなければと、真
剣です。」彼らと出会い、教えることで、実は自分自身が多くのことを教わってい
る、と吉田さんは笑顔で話す。
そして、18周年となる今年。〈呼魂太鼓〉は新たな夢に向かって進もうとしてい
る。6月中旬新装オープンするカンボジアの日本大使館のセレモニーに参加、現地の
人たちに和太鼓演奏を披露したいと考えているのだ。
「太鼓は、世界で一番種類の多い楽器。長引く戦乱の中で忘れられてしまったかも
しれないけれど、カンボジアにもきっと伝統芸能としての太鼓があったはずです。現
地の人たちと和太鼓の演奏を通してふれあい、互いに文化的刺激を分かち合えたら」
と、吉田さん。
とはいえ、6月の遠征までに渡航費をどう工面するかなど、頭の痛い問題も抱えて
いる。同会では現在多くの人に呼びかけ、趣旨に賛同してくれる人を募る一方、4月
21日芝浦工大柏高校の講堂でチャリティー演奏会を開催する予定だ。
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紅竜囃子
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「日本の伝統芸能のひとつ、和太鼓。その魅力を最大限引き出し、伝統に工夫を重
ねて、和太鼓にしかできないものを追求していきたい。そして、何よりも間近に見て
いる人たちと一体になって楽しめるような演奏を。太鼓を打つことで、その魂を呼び
起こし、一方通行ではなく「こだま(Echo)」の様に行き交い、響き合い、人々の魂
を呼び起こす。それこそが〈呼魂太鼓〉の目指す演奏です」。
☆呼魂太鼓HP☆