2007.09

<柏木じゅん子 の「柏つうしん」>

住まいから考える“次世代の健康”
  「千葉大学 柏の葉キャンパス ―ケミレスタウン・プロジェクト―」

(記)柏木じゅん子

「現代病」とも呼ばれているアレルギー疾患。 生活する上で大きな支障をきたすことの多いアレルギーは、罹患者数が年々増加傾向にあると言われている。 そうした状況の中で、千葉大学を中心に産学が連携して次世代の人々が健康に暮らせる街づくりを目指した 「ケミレスタウン・プロジェクト」
(※)が発足した。

プロジェクトの背景には「シックハウス症候群」の問題がある。 建材や内装材に含まれる化学物質が新築や改築の際に室内に放散され、頭痛・めまい・吐き気など 様々な体調不良を生じるのが「シックハウス症候群」である。 その対策として、国土交通省は、2003年7月に建築基準法を改正し、シロアリ駆除剤 「クロルピリフォス」の原則使用禁止と、シックハウス症候群の原因物質のひとつとされる 「ホルムアルデヒド」の室内濃度基準値を0.08ppm以下と設定した。

しかし、シックハウスの原因となる物質は他にもまだあり、発症のメカニズムも全てが解明されているわけではない。

そこで、柏の葉にある千葉大学環境健康フィールド科学センターでは、キャンパス内にできる限り化学物質を 削減した実験住宅を建設し、シックハウス症候群の原因究明と患者の症状改善、更に実験結果を今後の街づくりに 反映させるという取り組みを始めた。

ケミレスタウン

私自身も若干ではあるがアレルギー症状を有しており、また身内にアトピーの者がいることから、 「ケミレスタウン・プロジェクト」には深い関心を寄せており、取材を兼ねて千葉大学の公開講座 「環境改善型予防医学について−未来世代のためのまちづくり−」に参加させていただいた。

講座では、まずプロジェクト推進役の千葉大学の森千里教授から「環境改善型予防医学」と 「ケミレスタウン・プロジェクト」についての説明を受けた。 日本人の胎児のへその緒を調べると、水銀・PCB類など様々な化学物質が検出されるという話が強く印象に残った。 現代に生きる人々のみならず、未来世代の健康を守るためにも「病気にならない環境づくり」は重要なのだ。

講義の後、化学物質に対する反応を調べる問診票 (QEESI)の記入、ストレス度合いを調べるための唾液中 アミラーゼ濃度の測定と血圧測定などを経て、いよいよ敷地内にある4棟の実験棟を見学することに。

実験棟1(積水ハウス株式会社)
玄関外側のドア横にあるスイッチを押すと、エアシャワーが作動して身体に付いた花粉を吹き飛ばす。 積水ハウスでは、栗の木の無垢床板を使用するなど建材の低VOC(揮発性有機化合物)化を図ると同時に、建物の 外部と内部をつなぐ土間にあたる部分に「コンサニタリー空間」を設け、外から持ち込まれる花粉・化学物質の影響を 緩和しているのが大きな特徴となっている。
積水ハウス


実験棟2(東急ホーム株式会社)
輸入住宅「ミルクリーク」を主力展開している東急ホームでは、熱処理で生産した無垢材「サーモ・ウッド」の床や、 薬品を使わない「アレルギー対応カーペット」をはじめ、化学物質をできるだけ削減した建材・家具を使用している。 また、光触媒によって有害物質を分解する塗料を内装に用いたり、紫外線ランプを組み込んだ空気清浄作用のある エアフィルターを設置するなど、室内の空気環境整備に配慮した家づくりに取り組んでいる。
東急ホーム


実験棟3(株式会社エヌアールエーハウジング/株式会社無添加住宅)
かねてよりシックハウス対策住宅を手がけていたエヌアールエーハウジングと無添加住宅では、日本の伝統的な建築手法 を取り入れた無添加の家づくりを実践している。無垢材・天然石などの自然素材の建材を使用する他、接着剤として 「米のり」や「にかわ」、壁には「漆喰」、塗料に「柿渋」、断熱材に「炭化コルク」を用いるなど、住まいの随所に 昔ながらの日本人の知恵が生かされている。
NRAハウジング 無添加住宅


実験棟4(株式会社高千穂)
高千穂の実験棟では、同社が開発した火山灰シラスを原料とした建材が用いられている。 湿度の調節・消臭・化学物質の吸着性に優れた火山灰シラスは、100%の自然素材であり、例えば将来建て替えなどで取り 壊されても、そのまま土に還るというエコロジーな特性もある。その他、屋外には非常用水として雨水を貯蓄する水がめが あり、屋根に設置されたOMソーラーシステムによって太陽熱を暖房に活かすなど、自然の力を積極的に導入している。
高千穂


4棟とも、厚生労働省が定めたVOC(揮発性有機化合物)13種類の指針値の10分の1以下にすることを当面の課題にして おり、見学した際、その課題に対する各社の意欲と工夫を目の当たりにすることができた。 この実験棟には希望する患者と家族が数日宿泊して、シックハウス症候群や化学物質の健康影響を研究する。 また、実験棟の近くに建設中の「テーマ棟」には、「環境医学診療科」や「ケミレスライブラリー」などが設けられる ことになっている。

プロジェクト担当者の千葉大学の戸高恵美子助教は、「現在の建設業界における化学物質の削減への取り組みはまだ十分とは 言い切れません。ケミレスタウンでの実証実験の結果を、健康に暮らせる住まいづくり、街づくりにつなげていくことが できればと考えています。」と語ってくださった。「ケミレスタウン・プロジェクト」は、国内のみならず海外からも注目を 浴び、問い合わせや取材がきているそうだ。

ここ数年、柏ではTX開通の影響もあり、あちこちで新築マンション・新築住宅の建設現場を目にする。 安心・安全に暮らせる住まいづくりは、建設ラッシュを迎えた今こそ早急に向き合うべき問題なのではないだろうか。

※ 「ケミレス」とは、化学物質(=ケミカル)を極力減らした (=レス)という意味の造語。 「ケミレス」、「ケミレスタウン」、「ケミレスハウス」はNPO次世代環境健康学センターの登録商標である。

ケミレスタウン推進協会HP
http://chemiless.hp.infoseek.co.jp/