2007.12

<柏木じゅん子 の「柏つうしん」>

語り手と聞き手が一体となった
「ひめしゃら文庫&わの会 朗読の集い」

(記)柏木じゅん子

ちらほらと雪の舞う2月9日(土)の午後、アミュゼ柏・プラザホールにて「ひめしゃら文庫&わの会 朗読の集い」が開催された。 「ひめしゃら文庫」とは、柏市在住の大杉富子さんが2002年に自宅に開設した家庭文庫で、 現在0歳から小学6年生までの子どもとお母さんたちが毎週月・金曜に集まっている。 一方、「わの会」は、広池学園で朗読を学ぶ仲間から発足したグループで、文庫活動を支援しながら、 北柏の「たんぽぽホール」にて年一回の定期公演を行っている。
写真1朗読会の様子
プラザホールは満員。立ち見の方もいる中で、朗読会がいよいよスタートした。 最初は、ひめしゃら文庫の小学2年生らによる『葉っぱのフレディ』(※1)の朗読。 全てのものはとどまることなく移り変わっていくという<万物流転>の命の営みを考えさせる作品である。 フレディの「ぼくは生まれてきてよかったのだろうか。」という問い、 親友ダニエルがフレディに伝える「“いのち”は永遠に生きているのだよ。」という言葉は、 朗読する子ども達の真っ直ぐな声と共に直接心に響いてきた。
写真2『葉っぱのフレディ』
2番目は、大杉富子さん(朗読)・宮原洋子さん(馬頭琴演奏)によるモンゴル民話『スーホの白い馬』(※2)。 モンゴルの民俗楽器「馬頭琴」の誕生悲話で、小学校の教科書にも掲載されていることから、日本でも広く知られている。 馬頭琴の生演奏を聴くのは初めてだったが、演奏と朗読に耳を傾けるうちに、 馬頭琴の音色とストーリーが重なり、モンゴルの大草原を駆け抜ける一匹の白馬の姿が目に浮かぶようだった。
写真3『スーホの白い馬』
続いて、宮原さんによるモンゴル民話『子ラクダの話』(※3)の弾き語り。 母親と引き離された子ラクダが、広大なモンゴルの地を旅しながら母親を必死で探し求める話で、母と子がお互いを想う気持ちの強さが伝わってきた。 モンゴルの厳しい自然において、遊牧民が移動式住居“ゲル”の中で家族と過ごした一時は大切な団欒の時間だったに違いない。 そして皆で炉を囲みながら、親子の絆の強さを説くこの物語を代々語り継いできたのだろう。
写真4『子ラクダの話』
最後は、「わの会」のメンバーによる宮澤賢治作『洞熊学校を卒業した三人』の朗読(※4)。 「大きいものがいちばん立派」と教える洞熊先生の学校を卒業した蜘蛛・なめくじ・狸の話である。 それぞれ名誉欲・競争心などから貪欲に獲物を捕らえて肥えていくが、結局、三者三様に自滅してしまう。 話し手のユーモア溢れる語り口で会場から何度も笑いが起こった。 また、作中の季節の変化にともなって「眼の碧い蜂」たちの姿が描写されるが、蜘蛛らと対照的な蜂たちの堅実な生き方が静かな語りとともに印象に残った。
写真5『洞熊学校を卒業した三人』
プログラムが終わると、会場からは大きな拍手が沸き起こった。 作品を「耳で聞く」という朗読の世界は、「目で読む」時とは異なり、豊かな言葉の響きから、物語のイメージがどんどん広がっていく。 朗読の醍醐味は、語り手と聞き手が一体となって作品の世界に入り込めるところにあるのかもしれない。

会場の外には、ひめしゃら文庫の軌跡を辿る「ひめしゃら文庫・年間行事」と「ひめしゃら文庫の5年」の活動記録(写真)や、 子ども達が創作した絵本などが展示されていた。文庫では、読み聞かせの他にも「国際子ども図書館」の見学、夏の自然観察会(キャンプ)、 クリスマス会、絵本作りなど様々なイベントを行っているそうだ。 写真には、楽しそうに目を輝かせている子どもや、作業に夢中になり真剣そのものの表情の子ども達が写っていた。
写真(6)ひめしゃら文庫年間行事 写真(7)ひめしゃら文庫の5年
朗読会の後で、大杉さんは「文庫の活動を通して、善意溢れる人たちにたくさん出会えました。」と語ってくださった。 家族の絆、地域のつながりの希薄化が危惧される現代社会において、ひめしゃら文庫の活動は、 それぞれの絆の「結び目」になっているといえるのではないだろうか。 そして大杉さんをはじめとした文庫活動に携わる方々の優しさ・思いやりの心が加わって、よりしっかりとした「結び目」になっているように思える。 また、大杉さんに「ひめしゃら文庫」の名前の由来を伺ったところ、 「柏に引っ越してきたときに庭に植樹した“ひめしゃらの木”に因んで付けた名前なんですよ。」と教えていただいた。 (* ひめしゃら(姫沙羅)は、6〜8月に白い花を咲かせるツバキ科の樹木のこと) ひめしゃらの木と共に成長する子ども達が、文庫で経験した様々なことを心の栄養として、やがてどんな花を咲かせるのか、今からとても楽しみである。



【作品紹介】
※1 『葉っぱのフレディ〜いのちの旅〜』レオ・バスカーリア(作)/島田光雄(絵)/みらい なな(訳)/童話屋
※2 『スーホの白い馬』[モンゴル民話]大塚勇三(再話)/赤羽末吉(絵)/福音館書店
※3 『ひとりぼっちの白い子ラクダ』[モンゴル民話]Sh.ガンボルド(絵)/Ts.ホンゴル (訳・再話)/ ネット武蔵野
※4 「洞熊学校を卒業した三人」は『宮沢賢治全集7(ちくま文庫)』 (筑摩書房)に所収。
児童向けの「ほらぐま学校を卒業した三人」は、
『[新版]宮沢賢治童話全集3―どんぐりと山ねこ』(岩崎書店)に所収。