2000.4 

コッピーに、首ったけ!   

==By上野さくら==

仕事帰りに立ち寄る、Kashiwa Station。
1年以上も前から、ずーっとずっと、気になっているスポットがある。 ステモのT館3階、フラワーショップ前。柱まわりの小さな空間だ。 そこには低い銀色のワイヤーラックが置かれ、水草の入ったガラス瓶がいくつも並べ られている。

小さいものはインク瓶、大きいものでもティーポットほどのふた付き水槽(?)。 身をかがめてよーく見ると、緑の水草と赤や青のガラス玉がちりばめられた白い底石の間を、 ツツツツツーっと。あれあれ、小さな小さな魚が、泳いでいる!体長1センチにも満たない、 半透明のメダカに似た魚、「コッピー」だ。か細いボディーに、銀のライン。尾ひれと背びれ はかすかに赤く、熱帯魚を思わせるコッピーは、「タニクシス・アルボナベス」という中国原 産の魚だという。

その姿のかわいらしさに惹かれてか、はたまた、きれいな底石と涼しげな 水草入りの瓶が目にとまってか、いつここを通りかかっても、誰かしらお客さんが立ち止まり、 興味深そうに瓶を眺めている。親子づれや女子学生、若いカップルや老夫婦まで、立ち寄る人 は、いろいろだ。みな、そぉっと身をかがめては、「きゃー、かわいい」「へぇ〜、ちゃんと生きて るぅ」など、感嘆の声をあげる。感心したり、不思議がったり、なんだかとっても楽しそう。時に、 いかつい感じのお父さんが幼い子どもと肩を並べ、目を細めながら、「お魚さん、かわいいね ー」などと話している姿を見ると、こちらまでほのぼのした気分になってしまう。コッピーもかわ いいが、それを眺めるお客さんの姿は、もっと面白い!

かくいう私もこの1年、何度となくこの コーナーに立ち寄っては、瓶の位置をずらしたり、手に取ってみたり、ついつい、小さなアクア リウムにうっとり・・・。毎回いろんな姿勢で熱心に眺めてはいるが、買いそうで買わない、お邪 魔なコッピーファンになってしまった。「え〜、なんでぇ〜。そんなにほしけりゃ、買えばいいじゃ ない」と友人は言う。「だいたい買いもしないのに、よく何回も通い詰められるよね。私なら、恥 ずかしいけどなぁ」う〜ん、そういわれれば、そうだ。お店の人に、いつも同じおばさんがウロ ウロしてると思われるのも、格好が悪いよなぁ、とも思う。だけど、こんな小さくか弱そうな魚 でしょ、家に持ち帰るまでに何かあっては、と思うと、気安く買って帰る気にはなれないのだ。

だいたい、私がここに立ち寄るのは、仕事かショッピングの帰り道。やたらといろんな荷物 を持っていて、生きた魚の入っている瓶を無事持って帰れるかどうか、定かではない。 家までは電車をひと乗りし、それから自転車。途中、ガタガタしているうちに、コッピーが自 転車酔いして、死んだり弱ったりしたらどうしよう。それに、こんなに小さなガラス瓶だもの、 わが家の4匹の子猿たち(?)が寄ってたかっていじりまわしたり、ふたを開けたりするうちに、落っ ことしちゃうんじゃないかと、これまた心配。置く場所だって、問題だ。日が当たり過ぎてはい けないし、うかつにそこいらに置いては、家の中ではしゃぐ子猿たちに引っかけられないとも限 らない・・・第一、このコーナーは、仕事で疲れくたくたになって家路を急ぐ私の、いわばリフレ ッシュサロン。かわいいコッピーはここにいてこそ、意味がある!と思ったりもするのだ。そん なこんなを考えていたら、あっという間に1年が過ぎてしまった。

「やーねぇ。そんなこといって ると、そのうち、店頭から消えちゃうかもよ」 冷ややかに言い放つ友人。 その一言に、「え〜、まさか!でも、そうなったら、たいへ ーん!」と、ついに購入を決意。 コッピ−のためだけに、自転車を使わず、柏に出た。 「あの、これ、お願いします」と、 お気に入りの瓶を、店員さんに差し出す。 包装してもらう間の、何ともいえないウキウキした気分。いい年して、なんか恥ずか しいなぁと思いつつ、子どもの頃、縁日でヒヨコを買ってもらった日のことを、ふと 思い出す。2000円で、コッピー3匹。高いか、安いかは分からないが、 とにかく念願のコッピーをわが家に迎え、大満足の私。うふふ、なんて、安上がりな幸福!!

さて、それから、3週間。今日もかわいいコッピーちゃんにエサをやり、いざ出陣。 けれど、・・・家でコッピーを飼っている今でも、柏の街を歩いていると、ふと、 あのコーナーへと、自然に足が向いてしまう。あの場所で、見知らぬ人と肩を並べ、同じ世界 に遊んでいるような不思議な瞬間。そんなひとときが、私にとって小さな幸せだったりするんだなぁと、改めて思うこの頃だ。