==By上野さくら==
都心から電車で30分。千葉県にありながら千葉を意識しない、むしろ東京の一都市
のような感じさえする街、柏。
駅前にはデパートやスーパーなどの大型店がそびえ、若者に人気の専門店やおいしく
て安いレストランや喫茶店、居酒屋、映画館やボーリング場、書店やCD、パソコン
ショップも充実。子どもから大人まで楽しめる街だ。
でもでも、柏がこんな便利で快適な街になったのは、ここ十数年のこと。
20年も30年も前から住んでいる人にとって、まさかここまで大きな街に発展する
とは思いも寄らなかったことだろう。
大勢の乗降客と買い物客でごったがえす柏駅で、私はふと、初めて柏を訪れた頃のこ
とを思い出した。
昭和40年代のある夏の日。
当時、私は都内の中学1年生。柏に区立の宿泊施設があり、先生や友だちと日本橋か
ら電車やバスを使って、林間学校にやってきた。
柏学園は駅から車で15分ほど、手賀沼を見下ろす高台にある。学園周辺にはうっそ
うと茂る林や畑が広がり、赤土のむき出した道を歩けば、土埃が舞う。青い空と焼け
つく太陽、鼻に突き刺さる強烈な肥やしの匂い。都心のビル街で育った子どもたちに
とっては、立派な田舎の風景だ。すごいところに来たもんだと、ただただ、みんなで
驚いていたように思う。
日中は照りつける太陽の下、体力測定やクロスカントリーなどで汗まみれ、赤土まみ
れ。夜は、しーんと静まり返った田舎道を男女2人一組で歩く「肝だめし」だ。ネオ
ンサインはもちろん、街路灯さえない真っ暗闇の世界。細くてボコボコした小道を、
初めて男の子と二人きりで歩いたあの日の胸の鼓動は、風にそよぐ木々の葉音、夏草
の蒸れた匂いとともに、今も心の片隅に残っている。
そのころの柏駅は今のような立派なダブルデッキなどなく、ごく普通の平屋の駅舎
だった。はっきりと覚えていないが、長い長いホームが何本か横たわり、一本の陸橋
によって行き来ができるようになっていたような気がする。
帰りは、確か平日の夕方だった。駅は静かで閑散としていて、どこかさびしげな風が吹いてい
た。上り電車を待つ間、なんだか急に都会の雑踏が恋しくなり、逃げ帰るようにして
電車に乗り込んだことを、今でも時々懐かしく思い出す。
あれから20数年。昭和46年、常磐線の複々線化で千代田線が開通。48年にはダ
ブルデッキが完成して、そごう、高島屋が開店。以来、柏駅周辺の様相は大きく変化
し、時代の波と若者の心をとらえつつ、活気あふれる一大商業地へと成長してきたの
だ。
先日、こんな柏の昔を語る1冊の写真集と出合った。柏市役所発行の「歴史アルバム
かしわ」(昭和57年刊)だ。318ページの分厚い1冊に、明治から昭和にかけて
の写真が満載。それぞれの時代のまちの様子、人々の暮らしや自然の風景などが白と
黒の世界に映し出されていて、思わずぐぐっと引きつけられた。
戦前、豊四季に柏競馬場があったこと、戦時中は柏陸軍病院や柏飛行場(柏の葉公園
付近)、高射砲連隊(北柏)などの陸軍の施設があり、軍都柏と呼ばれていたことな
ど、初めて出合う柏の歴史に、ただびっくり! 現在の町並みからは想像もできない
歴史の一コマを、この目で確かめることができ、なんだか感慨深いものがあった。
便利で、快適、そしてちょっぴりおしゃれな街、柏。時にはその歴史を振り返りなが
ら、今までと違った目線で柏の街をながめてみるのも、なかなか楽しいものだ。
7月22日から30日まで、柏高島屋ステーションモール8Fの市民ギャラリーで、
「 目で見る柏の近代展 」(入場無料)が開かれる。地図で見る柏の移り変わりや
昭和初期の柏町中心部の町並みなど、写真や史料50点が展示されるそうだ。
買い物帰りにぶらり訪ね、私たちの知らない柏に出合ったら、にぎやかな現在の柏の
街も、違った風景に見えるかもしれない。
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