<庭野すみれの なんでもウオッチング>
「あれって何?」
     柏駅前商店街通りの不思議モニュメント

(記)庭野すみれ


  

  モニュメント「躍動」               モニュメント「躍進」

 

 いつだったか作家の赤瀬川原平さんから、「路上観察」とやらの方法と、面白さについ て講釈を受けたことがある。気の合った仲間で、面白い建物や道具類をさがしながら歩き 回るという一種の遊びである。通い慣れた街や駅の風景も、ちょっぴり目線を変えれば、 あら不思議、違った顔にみえてくるというわけである。

 街路灯が点り始める頃の、柏駅東口駅前通り商店街・ハウデイーモールは、ものすごい 人出だ。その人波に心地よく揉まれながら「路上観察」すれば、いろんなものが目に飛び 込んでくる。丸井の前のオブジェ「ジャックと豆の木」や、鐘の鳴る「時計塔」、なかで もひときわ目を引くのが、道路を挟んでイトーヨーカドー前と、マクドナルド前で、美し くライトアップされた2基のモニュメントである。

  

アルミで作った彩色前の本体      作品をバックに製作者の喜屋武さん

 ちなみにハウデイーモールとは、「やあ」と気軽に立ち寄れる商店街という意味で、1 989年の公募で決まったそうだ。見苦しい電線を地下に埋め、景観に力を入れてきた商 店街では、それから10年後の1999年にこのモニュメントを設置している。横断幕を 張るためのポールにも使われるが、東京駅の「銀の鈴」のように、人があつまる場になっ てほしいという願いが込められている。

 2基のモニュメントは、高さ5メートルのポールの上に、縦形の「躍動」(高さ2メー トル幅1メートル、重さ43キロ)と、横形の「躍進」(高さ1メートル、幅2メートル 、重さ22キロ)が据えつけられている。なんとも不思議なその形といい、鮮やかな色と いい、すみれ流に言えば、「おもしろ不思議物体」である。


発砲スチロールで原型を作る


 制作に当たった造形作家・喜屋武貞男さんに、完成までのエピソードを聞いてみた。ご 本人によれば、本当は5メートルのポールに対して、4メートルの作品を乗せるのが理想 だったが、地下に電線のケーブルが埋設されていることから、深さや重さに制限があり、 この大きさになったという。言われて見ると、惜しいなという気がする。

 さてこの不思議な形であるが、じつは「かしわ」という平仮名の文字を立体にして、バ ランスよくひねったもの。しかも30分位で1回転するようにできている。じっと見ても、 動きはよくわからない。「もっとわかるように、速く回転させた方がいい」という意見 も多いそうだ。



1999年3月22日の点灯式でのテープカット

 では、挑発的ともいえるあの色調はいったいどこから?喜屋武さんは名前からも想像 できるように、両親が沖縄出身である。大阪に生まれ、東京芸術大学を卒業して中学校の 教師をしていた時、沖縄にスケッチに行って驚いた。その頃の沖縄は、空の真上も真横も 同じ青さだった。こっちで描く時は空から地上にいくにしたがい、必ずグラデーションを かけていた。


 「あのグラデーションの正体は、空気の汚れだったんだ!」と思うと、絵筆を持てなく なるほどショックを受けた。名作『智恵子抄』のなかで、「東京には空がない」と言った 智恵子の言葉は本当だった。沖縄への思いを抱きつつ定年を迎えた喜屋武さんは、絵を基 本からやろうと沖縄にアトリエを借り、柏との間を往復するようになった。

個展・レインボーバリエーションの会場にて

 沖縄で風景を描きつつ、ふっと空を見上げると、雲がとてもきれいだった。見ればいろ んな色があって面白くてしょうがない。その色は必ずしもそっくりでなくても、ちょっと 濃くしてもいいのではないかと、喜屋武流に翻訳したのが「レインボウカラー」と呼ばれ る、赤、青、緑などの鮮やかな色である。


 創作ざんまいで幸せそうな喜屋武さんの口から「ぼくは、いつも二番目に甘んじてきま した」と、意外な言葉。幼いころは船乗りになりたくて神戸商船大学を希望したが、体格 ではねられた。二番日の希望である彫刻家を目指して芸大に学んだが、生活のために、彫 刻家よりも教師を選ばざるをえなかった。しかし、教職で得たものも大きかったと。

 商店街のモニュメント以外に喜屋武さんの作品は、学校の校庭やロビー、公園などで数 多く見ることができる。たとえば松戸市立常盤平第3小学校、県立柏高校、柏陵高校、我 孫子高校、流山東高校、野田北高校、船橋東高校、柏の宮前緑地公園などなど。柏市役所 の「平和祈念碑」は喜屋武さんの監修によるものだ。

 お話の途中で、喜屋武さんはカバンの中から細い竹笛を取り出した。これまた目も眩む ような鮮やかなレインボーカラーである。自分で演奏して、なんとCDまでつくったとい う凝りようだ。手に取ってみると、いかにも楽しそうな創作現場が目に浮かんでくる。そ して、ほかの作品もぜひ見たいなと思った。