2002.10.2 


<庭野すみれの なんでもウオッチング>
 いざ、芸術の秋!<柏わたくし美術館>訪問記      

(記)庭野すみれ


 

<いらっしゃい>と、堀良慶館長 

あの暑かった夏はどこへやら、色づいた柿やみかんが店先に並び始め、もうすっかり秋。 <食欲の秋>を満喫するのもいいけれど、すみれさんは、<芸術の秋>としゃれこんで、「柏わたくし美術館」を訪ねてみた。

ここは、堀良慶さんのコレクションを常設展示する個人美術館で、20年近くにわたってコツコツと収集した1000点あまりの絵を、自分だけのものにせず、いろんな人にも見てもらおうと、2000年11月に開館されたものである。

あらかじめ、電話を入れていくと、館長の堀さん

リビングも展示室に 

がにこやかに迎えてくださった。玄関を入ると、3階までの住まいがそのまま展示室になっている。大きな美術館とは違ったアットホームな空間で、のんびり鑑賞しながら、館長との対話も楽しむことができる。

「サラリーマンは、仮の姿でした」と言い切る堀さんは、幼いころから絵が得意で、本当は絵描きになりたかったそうだ。ところが中学生のとき、こともあろうに教師がピカソの絵と堀さんの絵を並べて、「キミの絵は円山応挙(まるやま・おうきょ)ふうで、生命力を感じない」と評した。反撃もできないまま堀少年の心は傷つき、それ以来絵筆が持てなくなってしまった。

2階に展示された長縄作品

しかし、サラリーマンになったある日、美術館でピカソの絵を前にして、改めてその偉大さがわかり、教師の言葉の意味もうなずけた。絵描きになるにはもう遅かったが、コレクションというかたちで堀さんと絵との、長いつき合いが始まった。

絵を買うために、パチンコ、マージャン、ゴルフなど一切やらなかったが、海外勤務なども経ながらビジネス社会で生きてこられたのも、絵のおかげだった。左脳ばかりを使っている仕事人間にとって、絵のコレクションは右脳を刺激して、うまくバランスをとってくれるのだという。

「ある時期はテレビやクーラーも我慢させたり、家

収蔵品「老婆」鞍掛徳磨(くらかけ・とくま) 

族に贅沢はさせられませんでしたが、お金は天下の回りもので、気がつけば1000点になっていました」と、幸せそうに語る堀さん。一枚一枚が、目利きの堀さんに選ばれた幸運な絵たちだ。

一枚の絵から喜びや、さわやかさ、そして詩や音楽を感じることもある。いつしか観るものの心は癒され、開放されてゆく。「わたくし美術館が、絵を好きになるきっかけになったり、人生を見つめる場になったりすれば、これ以上うれしいことはない」と、堀さん。

たくさんの絵の中で、すみれさんの目に止まったのが、鞍掛徳磨(くらかけ・とくま)の「老婆」という作品。深いしじまの中に座している一人の老婆。まるで生き仏のような気配すら漂ってくる。丸まった背中や顔に刻まれたシワ。まぎれもなく労苦をいとわない崇高な母親の姿だ。

もう一枚、山本正(やまもと・せい)の「女医」という作品。きりりとした美人だが女医というだけに目に力があり、ただ者ではないという感じ。なぜかその素性を知りたくなる絵である。どの絵にも隠されたドラマがあり、「老母」も「女医」も、購入の時のおもし

収蔵品「女医」山本正 

ろいエピソードを聞かせていただいた。知りたい人は直接どうぞ。

当館では、企画展も1,2ヶ月ごとに行われており、現在では柏市在住の画家・長縄えい子さんの十代から現在にいたるまでの作品70点が展示公開されている。奔放で大胆、そしてユーモラスなタッチで描かれる長縄さんの絵からは、地熱のようなエネルギーが伝わってくる。

長縄さんの創作活動は海外にもおよび、戦乱に明け暮れ、教育どころではなかったカンボジアに行って、絵の先生の育成にも当たっている。「銃より絵筆を」と、テロ直後のニューヨークで個展を開き、今年もカンボジアでの個展が大きな話題になった。

図録「柏わたくし美術館・所蔵品100選」を開くと、一作ごとに的確なコメントが添えられており、堀さんの絵に向けるまなざしの優しさが、しみじみと伝わってくる。末尾に「この画集を心を込めて我が妻へ贈ります」と、したためられている。なによりもまず、奥様の理解あってこそのコレクションなのだと、深くなっとく。堀家のご家族に拍手を贈りたくなった。

収蔵品「海岸風景」井上長三郎

一枚の絵との出会いが人生を変えることだってある。その出会いを求めて、あなたもいかが? 長縄展は10月いっぱい。11月は、マルチ芸術作家・青山美野子展の予定。 所在地=柏市若柴1−358 TEL(04-7134-8293) 開館日=日、月、火、水の午後。 行く前に電話で予約してくださいね。

(※写真は館長の許可を得て掲載いたしました。無断でコピーすることは禁じます。)