2007.05.16

<庭野すみれの なんでもウオッチング>

路上でアートを楽しんだ母の日の午後

「風景のための工事―YUSUKE NAKANISI」

(記)庭野すみれ
風景のための工事?なんのことやろ?という好奇心で、現場に足を運んだ。

まず工事現場となる柏の東口駅前通り(ハウディーモール)で、赤い三角コーンで囲んだ路上に、黒いビニールのカッティングシートが貼られる。

やがて、そこにカッターナイフで亀裂を入れるという作業が始まった。作業員は、一般公募で集まった人はもちろん、道行く人の飛び入り大歓迎ということで、徐々に親子連れなどの参加者も増え、亀裂はどんどん延びていった。
亀裂(ヒビ)の入れ方は全く自由ということで、すみれさんも試しにやってみた。思ったよりもスルスル切れて面白い。亀裂といえば、単純に地震の地割れや稲妻のギザギザマークが連想されるが、若者や子どもたちは、もっと自由な発想で楽しんでいた。
これは、アートで人と街をつなぐことを目指して、昨秋から多彩なイベントを展開してきた「JOBANアートライン柏」の協賛を得て、東京藝術大学先端芸術表現科2年の中西祐輔さん、山田繭さん、高畠淳さんの3人が、「URBAN BACK−SIDE LABORATORY」(都市裏実験所)の活動をスタートさせたもの。
「亀裂って何を表現しているんですか?」と、おバカな質問をしてしまったが、中西さんは「そう聞かれてもちょっと困ってしまうのですが…」と言いつつも、まじめに質問に答えて下さった。

「何を表現しているかは見る人にまかせます。街のなかに何かが出現するとによって、風景が、世界が大きく変わること、つまり楽しい風景を日常のなかに創ろうかなという試みです」。そうか、中西さんの楽しいことが、道行く人も楽しければ、そこにあるひとつの風景が生まれるわけだ。
音楽でも絵でも、若者たちの芸術活動への支援を惜しまない柏インフォメーションセンター理事長の石戸新一郎さんは、「物よりも行為そのものが大切なわけで、そのための場はいつでも提供します」と述べられた。

10時から始まった工事が、お昼ちかくになると、路上に腹ばいになって夢中でカッティングする人でいっぱいになった。自分の足跡を残したいという人間の本能が働くのか、もう亀裂というより思い思いのメッセージや記念碑的な内容が増えていった。柏レイソルへの応援メッセージを彫ったのは柏南高校の生徒。カーネーションの花とともに「MOTHAR‘S DAY」と彫ったのは、山田繭さん。
難しいことは分からないが、この試みは、工事を企画した本人たちの手を離れて、どんどん街ゆく人の手にゆだねられていくことの面白さと、いっとき街の風景を一変させたということで、まずは大成功ということだろうか。今後も注目していたい。

都市裏実験所」の活動として、柏市民活動センター内で、順次作品展示もおこなう。

5月15日〜6月3日・中西祐輔。6月9日〜6月30日・山田繭。7月5日〜7月28日・高畠淳。