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「ジャズライン柏2000」 の(僕ふうの)聞き方。     橋本章

雪の朝のことを覚えていますか?暖かなふとんに眠っている夜に、ヒッソリと降り積もる。 醒めてみると、いつもと違って窓ガラスの色が明るく白い。外を覗いてみる、静寂な朝に 真っ白な雪景色。

6月17日の「ジャズライン柏2000」のことを想うと、そんなイメージを持ってしまう。 一夜明けると、柏の街がジャズの世界に様変わり。僕の大好きなジャズプレイヤーやシ ンガー達があちこちで、いろんなスタイルの音楽を表現している。なんだか本当に夢の ようだ。

想えば、斑尾やMt.Fujiなどのジャズフェスにはよく出かけた。そして、大晦日には、 必ずオールナイトでジャズライブを楽しんだ。けれども、いつも何かもの足りない気持 ちになってしまう。理由は、それが素晴らしい演奏であるほど時間が短く、ゆっくりと堪 能できないから。たくさんのミュージシャンが集まるジャズフェスの形式には、「おい しい料理、制限時間内、急いで食べてね」的なところがあって、残念なのだ。

大好きなプレイをたくさん、ゆっくりと聞きたい。そんなゼイタクな企画を満たしてくれ たのが、複数の個所で同時開催のライブ形式。それが、この「ジャズライン柏2000」だ。 しかも、僕にとっては地の利が充分ある地元柏で。

「京北ホール」「STUDIO WUU(ウー)」「Nardis(ナーデイス)」「アミュゼ柏」「アミ ュゼ内プラザ」と5カ所で演奏するジャズプレイヤーの顔ぶれは実に多彩だ。早速タイム テーブルを見ながら2日間の予定をあれこれ考える。このタイムテーブルは、配布されて いるチラシの裏にあるのだが、まだ手に入れてない人はインターネットでも見ることがで きる。前置きが長くなってしまったが、僕なりのプランを紹介したい。

さて、6月17日、土曜日。
開始時間は午後の2時。ショッパナは、全てを決めるので、軽率は避けたい。つまり、原朋 直カルテットか、山田譲トリオか?慎重に考えたい。原さんは、柏出身、実力人気とも日本 でNo1のトランペッター。原さんは、最近いろんなことに挑戦している。何度聴いても、ス リリングな楽しさがある。原さんのプレイは、洗練され、インテリジェンスの高いものと、 若く彼らしいエネルギッシュなプレイという2つの印象を僕は受ける。個人的には後者が好みだ。 4月27日にスタデイオWUUで「原 朋直 (trumpet)、ピーター・ミケリッチ(piano)、ポール・ ギル( bass)、ジミー・コブ(drums)」のカルテットでの演奏がある。ユニットが違えば、 当然演奏も変わる。柏にいて、原さんのユニットをリアルタイムで聴き比べができるなんて いつから柏はこんなにすごくなったのか。 と言いながらも、実は、山田譲さんのアルトサックスを聞きたいという気持ちも強い。ある 時の山田さんは、ソプラノサックスでコルトレーン一辺倒だったけど、僕は山田さんのアル トサックスによるバラードが好きだ。迷う、、。

次は迷うことなく、本田竹広トリオだ。Nardis(ナーデイス)の店主に聞くと、本田さんと いう人は、プレイを離れても相当の個性の人だということだ。けれども、昨年の10月に 「本田チコ」のライブを聞いたときの本田竹広さんのたたずまいは、非常に穏やかで優しい 雰囲気に包まれていた。演奏のときの、パワーと独創的なプレイの本田さんとは別人のよう だ。今は自分のエネルギーをピアノを弾くその一瞬にだけ注ぎこんでいるように思える。だ から、そんな本田竹広さんのプレイを聞き逃すことは絶対にできないのだ。それから、ド ラムは本田珠也さん。親子対決のコラブレーションも楽しみだ。

そして、その次はどうしたよいのか?清水絵里子カルテットまたは、山口真文カルテットを 覗きにいくか?実は勉強不足なので、紹介できないのが残念。

19時、アミュゼ柏。
プーさん(菊地雅章)は、ニューヨークから柏のライブのためにやってきたと言っても過言で はない。活動はジャズやロック、ファンク、テクノ、ワールドミュージックと多岐にわたる。 実は僕の大好きな「山海塾」という舞踏グループの関わりもあることも知った。87年にアート ビデオ「月・小夜子・山海塾」をリリースしている。そして、ゲイリー・ピーコック(b)、 ポール・モチアン(ds)とのトリオによる「TETHEREDMOON」。96年、「ACOUSTIC BOOGIE」 で、スイングジャーナル誌による、ジャズデイスク大賞金賞を日本人アーテイストとして20年 ぶりに受賞。僕の印象では、プーさんのピアノは非常にスピリチュアルである。柏の演奏では、 まさに菊地雅章の完成されたピアノソロを堪能できるだろう。「二日間のうち、ひとつだけ聞 くとしたら?」と聞かれたら、菊池さんを推薦したい。

さーて、まだまだ、時間はあるぞ。
菊地さんのプレイは、予定では8時半に終わる。「木住野佳子(きしのよしこ)トリオ」は「 Studio Wuu」で、「Far East Blue」は「Nardis」で10時半まで聞くことができる。 Nardisでは、本格的なアルコールも飲めるし、Wuuでもビールやワインを飲むことができる。 そろそろ喉も渇くころだ。

木住野佳子さんのプレイには、特別の思い出がある。新宿の「DUG」というお店に、よく聴き にでかけた。「Fairy tale」というファーストアルバムは、「GRP」という米国の有名なジャ ズレーベルからリリースされた。僕が持っているそのCDには、「95・9・28 きしのよしこ」 と彼女のサインが入っている。彼女のプレイは、とてもフェミニンな感じがする。そしてアレ ンジが美しい。例えばこのCDには僕の大好きなスタイリステイックの「誓い」や、イバン・リ ンスの「ジ・アイランド」の曲が入っている。木住野さんにかかると、こんなにもロマンテ イックになるのかと驚く。
木住野さんについては、日曜夜の「テレビ神奈川」の「名曲物語」でお馴染みの方も多いか もしれない。また、Nardisにも、何度か来てくれた。はっきり言って美人だ。惹かれてしまう。

「Far East Blue」って聞いたことある?ない?このバンドは「手賀沼ジャズフェステイバル」 で有名な、「ブルースワゴン」の再編成バンドだ。片貝さんのボーカルが大好きな女性ファンも多い。

6月18日、日曜日
この日の出だしは14時から。Nardisの「大坂昌彦・TOKUカルテット」か、StudioWuuの「 南博カルテット」か?

今僕の手元にあるのは、98年4月に録音されたCD「Masahiko Osaka Walkin' Down LEXI NGTON」だ。ベースがクリスチャン・マクブライド、トランペットにダスコ・ゴイコビッチ をフィーチャーしている。大坂さんは、原朋直さんとのクインテットで活躍していたが、こ のCDでは大坂さんのリーダーアルバムとして、より自由で奔放、そしてダイナミックなドラ ムプレイを聞くことができる。98年手賀沼ジャズフェステイバルでの大坂さんもすごかったが 、「JAZZ LINE柏」で、またより大きくなった大坂さんに会えるが楽しみだ。あらためて考 えてみると、ひとりのプレイヤーを時間の経過の中で聴きつづけるというのも、なかなか面白い。

4時からは、京北ホールで「鈴木重子」クインテットを楽しもう。最近コマーシャルでよく みかけるから、ご存知のかたも多いかもしれない。「BSジャズ喫茶」という番組でも司会 をしていたよね。番組の中でいろんなジャズシンガーを紹介してくれたけど、時々自分で も歌っていた。ジャズボーカルの好きな人は、ゆっくり楽しもう。

しかし、僕は17:00の向井滋春カルテットを聞かなくてはならないので忙しい。向井さん のトロンボーンはカッコイイ。フユージョンをやってもよし、ブルースをやってもよし、い いんだなあ、これが。これは、あまり教えたくはないけれど、できたら、恋人どおしで行く のがいい。何故なら、向井さんのトロンボーンは、男と女を親密にする力がある。「僕達、 ここに来てよかったね」なんて思いにしてくれる。だから、それからはどこへでも行けるのだ。

さて、8時からは、「StudioWuu」での「澄淳子・黒田京子カルテット」。あっというまに 、最後の夜になってしまった。黒田さんは、3月に筑波で聴いているが、どんな曲でも自由 自在、彼女の即興的な演奏、その想像力に唸ってしまう。澄淳子さんは、実力あるシンガー であるが、個人的には初めてのご対面だ。それから、それから、太田恵資さんのヴァイオリ ンはたのしいぞ。と、いうか、ヴァイオリンだけでなく、太田さんのパフォーマンスにも期 待ができる。きっとびっくりしてしまう。興が乗れば歌も聞こえるかもしれない、でも、い ったい、どこの言葉なんですか?察するに中近東かと思うのですが? 個性あるカルテットの面々がどんなコラボレーションをするのか興味深々だ。

「ジャズライン柏2000」。以上の記事は、全く個人的な趣味で自分なりのプログラ ムを組んだもので、楽しみ方の一例に過ぎない。でも、こうしてタイムスケジュールを 見るだけでも待ち遠しい。

6月17日土曜日、18日日曜日、雪景色の朝のように柏の街はジャズ色に変わる。けれでも 、それは真っ白な世界ではなく、赤や、青、淡い色や、微妙な中間色。柏の街が音楽に包 まれて、ほっとした心のひとときを過ごすことができる、至福なイベントの時間だ。

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