かしわ倶楽部に戻る

坂本長利によるひとり芝居 「土佐源氏」 (01.21/2000 at WUU)



約2m四方の飾りのない台の上にロウソク一つ。祭りの笛の音に炎が揺れている。やがて、
静寂の中で、ゴソゴソ、ゴソゴソと音が聞こえ、振り向くとぼろをまとい、こもをかぶった男
が後ろの方から、舞台に這うようにして登場する。

「土佐源氏」、役者坂本長利氏の一人芝居が1月21日、柏のスタジオWUU(ウー)で上演
された。

「土佐源氏」は、民族学者の宮本常一氏が、土佐のある盲目の老人から話を書き溜めた。
村の生活秩序の外で生きた一人の博労(ばくろ)だ。盲目になり、まさしくボロのようになっ
て、死んでしまえば何も残さず、消えていくような男の話。

「あんた、よっぽどの酔狂もんじゃの、乞食の話を聞きにくるとはの」

乞食の話は、下品な色話である。しかし、眉をひそめたくなるようなその話が、少しずつ微
妙な色彩を放ちはじめる。

営林署の役人の嫁さんと、庄屋のおかたさまと彼が呼ぶ2人の女性についての語りが、鬼
気せまるように、そして無上の美しい恋愛物語として聞き手の胸を打つ。

「夕陽が小松を通して、暮れてゆく。嫁さんが坂をゆーくりと上ってくる。人の眼につくといけ
んからと言い、お堂の中に入っていかした。わしの手を取り、自分のミゾにあて、ほれ、ほれ、
こんなに動悸がうっていると言い、わしの顔を覗き込む。ほんにいい顔だったな。」

話の最後に、乞食は自分の一生を振り返る。

「男という男は、わしにもようわからん。けんど男が皆、おなごを粗末にするからじゃろ。わ
しはなあ、人は随分だましはしたが、牛だけはウソがつけんかった。おなごも同じで、かま
いはしたが、だましはしなかった。」

乞食が去ろうとするとき、強い風が吹き、その風に打ちのめされ、飛ばされそうになる。必
死にこもを握り背中を丸めその風に耐え、やがて男は舞台から消えていく。

あまりにも、ちっぽけな「風体の存在」と、目に見えないが、美しい「心の存在」の対象性
に圧倒され、舞台が終わっても、私は身動きができなかった。

役者の坂本長利氏は、今回で1042回めの公演だそうである。20年前に京北ホールで
の公演もしている。「まだまだ、本当の役を演じきるには、歳が必要ですね。」坂本さんは、
一人芝居「土佐源氏」と静かに格闘しているようであり、また楽しんでいるように話された。

先頭に戻る