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4/27,28,29 柏ジャズレポート (橋本章)

僕にとって、柏での4月の終わりは、ジャズライブの3日間で終わった。
27日「原朋直スーパー・カルテット JAPAN TOUR 2000」 。28日「綾 戸智絵」アミュゼ柏。29日「エイジアンパルム」

3つのライブは、それぞれの個性をもち、柏を訪れ去っていった。ライ ブというものは、過ぎてしまえば、跡形もなく消えてしまうもの。眠っていると きにみた夢、または終わった恋と同じで、どんな素晴らしくても、そこ に戻ることはできない一瞬のひと時だ。 けれども、良いライブには、熱い感動と、肩の重さが「スッ」と取れる 何かがある。毎日の日常の中で背負いこんでいるある種の「しんどさ」 から解放される一瞬の時間がある。

さて、3つのライブ、順を追ってレポートしたい。

■27日スタジオWUUでおこなわれた「原朋直スーパー・カルテットJapan  Tour 2000」
原さんは柏出身の人気トランペッター。P・ミケリッチは 原さんとは相性の良いピアニストで、昨年はデユオのコンサートをWUUでお こなった。ポール・ギル(ベース)は秋吉敏子のバンドでも活躍してい る。そして、ジミー・コブ(ドラムス)は、マイルス・デイビスや、ジ ョン・コルトレーンのユニットで演奏をした偉大な人だ。 この演奏は、TBSの「情熱大陸」の取材公演でもあり、テレビカメラが入る いつもと少し様子の違ったコンサートとなった。

演奏は、最初から原さんのトランペットが入り、都会的なセンスあるモ ダンな雰囲気を作り出した。ジミー・コブのドラムがビシっと全体の演 奏を支え、その上で原さんのトランペットとミケリッチのピアノが自由 自在に即興を繰り広げる。聞いていて面白かった。曲の構成は、原さん のオリジナルとスタンダードを交互にプログラムしたものであり、聞き 手はいろんな楽しさを味わうことができた。

ちょっとしたいい話。原さんは柏出身だ。その友人が経 営するラーメン屋さんに4人のプレイヤーが演奏前により、味噌ラーメン を食べたという。「マイルスと共演したジミーコブも、僕の作ったラーメン を美味しいと言って食べたんだ」。その友人の顔は本当に得意そうだった。

会場は原さんの親戚、同級生や恩 師が見守る、暖かいまなざしに包まれた。 音楽の好きな人たちが集まり、『場』がつくられ、そしてそこからまた演 奏家が育っていく。柏もそんな街になればどんなに楽しいことか。

■28日はアミュゼ柏で、「綾戸智絵」のコンサート。
綾戸さんは、昨年6月にやはり同ホールでコンサートをおこなって、柏で も多くのファンを引き寄せた。会場は18時半であったが、1時間前から入 場を待ち望む列が作られた。客層は広いが、4対1で女性が圧倒的に多い。 またちょっとおしゃれなご婦人の方も多く見受けられ、綾戸さんの支持層 を伺えるような光景だった。

このコンサートの企画は、柏在住のジャズ評論家児山紀芳さんによるもの。 ここ数年、柏でジャズの広がりを持てたのも、児山さんがいろんな面で支 援して下さっているからだ。

「きょうは、恋をテーマにします。ラブ、ラブ、ラブです、ええなあ。」 綾戸さんは、ステージに飛び出すなり、関西語で話かける。客を一瞬のう ちにリラックスさせ、つかむ。綾戸さんと客が一つになるのに、30秒を 要しない。煽られ、乗せられ、そしてロマンテイックな気分にさせられる。

「恋はフェニックス」、「The End Of The World」、歌謡曲のリミックス 「どんなときにも」をアレンジした「Any Time All the Time」。 歌謡曲なら「綾戸ブシ」とでも言うのだろうか、彼女の歌は激しく 強く心を共振させる何かがある。

「音楽は、一枚の楽譜だけれども、それを歌うものにより、演奏するもの より、この一枚の楽譜に命が吹き込まれる。歌が楽になる。それがどんな に悲しい歌でも、憂いのある曲であっても、歌われることにより、救われ、 楽になる。私はチッポケなパーソナリテイかもしれないけれども、歌 に命を精一杯吹き込んでいきたいと思うんです。」 話し終えて、ピアノの鍵盤に指を置く。
すぐにそれが「テネシー・ワルツ」のメロデイであることに気づく。
(ほら、私はこの曲をこんなふうにきょうは感じてピアノを弾き、歌いた いんです。一つの曲が私によって、また姿を変えて表れ、そして面白いこ とに、ここにいるお客さん一人一人の聞き方によっても、また違う姿にな る。だから、ジャズって素晴らしいんです。) 綾戸さんは、歌いながら、そんな気持ちを伝えてくれた。 後半は、「ミスター・ボー・ジャングル」。最後に「Over The Rainbow」。 綾戸さんの魅力が表現される最高の曲だ。

僕は、綾戸さんを2年前から原宿の「KEY NOTE」等で聞き続けてきた。 彼女の活躍は、全力疾走をし続ける短距離ランナーのようにも思える のだが、未だに休まる気配はない。今回のコンサートサー トで、また綾戸さんのファンは「ねずみ講のように」(綾戸さんの言葉) 増えたことだろう。

■29日、スタジオ「WUU」で「エイジアンパルム」 を聞く。韓国からの今回のツアーのために呼ばれた 「金大煥」(キム・デファン)(ドラムス)。梅津和時(サックス)。そ して筝(こと)を演奏する八木美和依さん。

梅津さんは、ジャズという音楽の分野に限らず、クレズマーという民族音 楽や、ロックやフリースタイ ルの音楽と活動が幅広い。
梅津さんは98年12月に筑波の「AKUAKU」という ライブハウスで、20人もの楽団を引き連れて演奏した。なんだか、サーカス の楽団のような雰囲気だったが、今回はまた趣きが違う。

金大煥さんは、62歳という年齢であるが、赤い ネッカチーフと丸いサングラスをかけドラムを叩く姿は、とてもそうは見 えない。ドラムの音は、バシ、バシ、ドシ、ドシという、とても重い音が する。八木さんは、筝の楽器のイメージを打ち壊す。棒をゴシゴシと擦り 付けたり、叩いたり、まるで、打楽器のようだ。そして、本来の筝独特の 透明な音もだす。そして、この3人が独自の演奏スタイルで即興音楽を作 りだしていく。

実は、会場には初めてこうしたライブコンサートに訪れた年配の方も相当 いた。しかも、ジャズは初めて。この3人の演奏がいきなり始ったときに は、あっけに取られたようすだった。
最後に、一番前の椅子に座っていた80歳近いご婦人が、3人の演奏が終 わった後でも、アンコールの拍手をし続けたのを僕は見逃さなかった。