柏駅周辺まちづくり勉強会2013〈第5回〉 郊外都市・柏のエリアマネジメントの可能性

柏駅周辺まちづくり勉強会2013〈第5回〉
郊外都市・柏のエリアマネジメントの可能性

講師: 宋俊煥(ソン・ジュンファン)氏
東京大学大学院、特別研究員
日時: 平成25年11月18日 18:00~
会場: 京北ホール
主催: 協同組合 柏駅東口中央商店街連合
共催: 商店街振興組合柏二番街商店会、柏商工会議所、(一財)柏市まちづくり公社
   
PDF: 郊外都市・柏のエリアマネジメントの可能性 本編(PDF:310KB)

司会あいさつ(柏市まちづくり公社 江田氏)

本日は、郊外都市・柏のエリアマネジメントの可能性というテーマで、東京大学大学院、特別研究員の宋俊煥(ソン・ジュンファン)様にご登壇いただきます。

はじめの言葉(柏市まちづくり公社 柴田氏)

どうも皆様今晩は。たくさんの方に来ていただいて本当にありがとうございます。
普段、商店街の皆様におかれては商店街の活性化のためにいろいろなことを努力されていることと思います。一方で様々な苦戦もされていると聞いております。そうした中で、これからのまちづくりを考えていく中で、今日お話しいただくようなエリアマネジメント手法を活用した、大きな範囲で街全体をとらえて街の未来を共有していくというようなことも必要になってくると考えています。
今日は皆様に役立つまちづくりのお話もたくさん聞けるかと思いますので、最後までお付き合いよろしくお願いいたします。

第1部 宋氏講演

1)数字からみた東京30km圏、柏市の現況と課題

●比較する鉄道駅の対象

宋:JR山手線の中心から30kmの距離を基準に、前後約3kmの範囲(27Km~33kmの距離)に位置するすべての鉄道駅(152箇所)を、駅ごとにどういう特性を持っているのかをGISデータ等を活用し駅から半径1kmのエリアを対象に比較調査をしました。

●研究の背景

宋:東京30km圏の都市の特徴は通勤1時間圏のベッドタウンとして継続的に開発が行われ、急激な人口増加を経験しております。また、この30 km圏は環状拠点都市群に位置付けられており、この中にはいくつか業務核都市と言われる都市が存在します。
業務核都市とは諸機能の集積する中核となるべき都市として位置付けられており、2006年に首都圏整備計画により「環境負荷低減の方針」の策定がなされ、CO2低減などが国としての方針として定められています。

●人口集積と乗降客数の割合(表1-2)

宋:各駅の鉄道利用度を居住人口数と従業者数を足した数で乗降客数を割った数字からみると柏駅はランキング3位(高利用業務集中型分類)となります。1位は大宮駅で、新幹線の乗換の影響が大きくなっています。流山おおたかの森がランキング8位(高利用居住集中型分類)になっていることにも注目していただきたい。居住人口が大変多く、従業者数が比較的低い、居住集中型エリアとなっています。
同じようにランキング3位の柏駅も居住人口数を従業者数で割ると、高利用業務集中型分類の駅の中で唯一0.768と従業者数が少ない居住する人口が多い駅であることがわかります。

●地区類型別の鉄道利用傾向(グラフ)

宋:仮説ではありますが、柏駅の鉄道利用度は東京30km圏の中でランキング3位だが、以前は1位だったかもしれない。これは時間軸でどういう風に変化したか考える必要があります。
また、これから鉄道利用がもっと減っていくのではないか、それが地域活性化にも影響があるだろうということも考えていく必要があります。
鉄道駅の利用度は柏駅周辺の地区現況及び特性(人口集積、公共サービス、都市機能集積、各変化率等)に深く関係するのではないかと考えています。

●TODの定義に基づいた評価指標の項目(表1-3)

宋:鉄道駅周辺地区が備えるべき性能をTOD論に基づき、6つのポイントから指標化しました。
【6つのポイント】

■基本的性能
  1. 共交通のサービス:鉄道駅の活用やアクセス、LRTやバスの利便性
  2. 必要な人口集積:都市機能の維持
  3. 高い都市密度:駅周辺を中心に複合的な都市開発への誘導
  4. ■経年変化による必要性能
  5. 構成要素の変化率:人口集積や都市密度の増減
  6. 社会的ニーズへの対応度:人口減少や高齢化に伴い必要となる都市機能
  7. 地域の特徴
■評価指標の定量化方法

GISデータの活用と各データの変化率を抽出してし、重回帰分析による多重共線性の検討と主成分分析の繰り返し実施を通じて最終的に21指標を選定

●TOD観点の評価指標と東京30km圏鉄道駅周辺地区の特性軸(表1-4)

宋:6つの評価指標に基づき、駅ごとに膨大な統計データを作成し、この膨大なデータを主成分分析により類似性などを利用していくつかの新たな変数:主成分因子にまとめた結果、4つの特性軸に分けることが出来ました。

【主成分分析による特性軸】
  1. Ⅰ軸:都市機能集積性(鉄道駅を中心に人口や都市機能が幾ら集積しているのか)
  2. Ⅱ軸:公共交通連結・利便性(都心や周辺地区とのアクセス性を示す)
  3. Ⅲ軸:都市機能変化率(鉄道駅周辺地区における都市機能の成長や衰退を示す)
  4. Ⅳ軸:都市自立性(鉄道駅を中心とした業務規模や能力の変化を示す)

●軸Ⅰ:都市機能集積性による地域数値分布図

宋:このⅣ軸を用い、152箇所の駅を数値的に比較していく図を作成しました。
戸建住宅世帯数比率が低く、建築延べ床面積の数値が高いほど都市機能の集積性が高くなります。
Ⅰ軸の図を見ると柏駅と周辺地域は都市機能集積性の高い地域が他の30Km圏の拠点駅(高利用業務集中型分類都市)とその周辺地域に比べて数値が低いことがわかります。

●軸Ⅱ:公共交通連絡・利便性による地域数値分布図

宋:利便性という点では、柏駅は大宮駅や町田駅とほぼ同等の連結性・利便性を持っていることがわかります。

●軸Ⅲ:都市機能変化率による地域数値分布図

宋:変化率が高いほど、都市の変化が速いということが言えますが、TX沿線駅の数値が大きくなっています。

●軸Ⅳ:都市自立性による地域数値分布図

宋:生産年齢がどの程度増減したかなどの数値を見ると他の拠点駅と比べ低いことがわかります。

●鉄道駅周辺地区の類型別特徴と課題(表①②)

宋:次にクラスター分析により152鉄道駅と周辺地区を7つの類型に分類しました。7つの類型(A:高密・停滞型、B:低密・成長型、C:高成長進行型、D:低密・衰退型、E:業務核拠点型、F:高密都市管理型、G:高密・成熟型)に分けますと、柏駅は高密・停滞型に属し、町田や大宮駅といった拠点駅は業務核拠点型に分類されます。柏駅もこの類型に属すことを目指すべきと思います。

●業務核都市の拠点駅を対象に駅半径1km圏の各指標の比較(表)

宋:なぜ柏は業務核拠に入れないのか?各指標を比較してみました。例えばバス路線数が他の駅に比べ少ないことや、10年間の乗降客数や後背地人口数や従業者数といった変化率をみるとマイナスの数値が出ていることがわかります。また事業所当たり平均従業者数が11名と他の拠点駅に比べ少ないことがわかります。
また乗降客数変化比較をみても、町田駅、立川駅、大宮駅が増加傾向になるのに対し、柏駅はTXの開通要因もあるが減少傾向にあります。

●グループごとの特徴(図)

Aグループ:高密・停滞型
Bグループ:低密・成長型
Cグループ:高成長進行型
Dグループ:低密・衰退型
Eグループ:業務核拠点型
Fグループ:高密都市管理型
Gグループ:高密・成熟型

●類型の地域分布図

宋:類型の地域分布図を見ると東北地域(柏駅)に業務核拠点駅がないことがわかります。また、低密・衰退型の地区が沿線に広がっていることがわかります。柏駅が拠点的役割の補完をするためには柏の葉キャンパス駅などとの都市機能の役割分担をする連携が必要ではないかと思います。

2)柏市の都市化の中で育ちつつあるエリアマネジメント

●都市化プロセスの特徴

宋:柏は古くから川沿いに小集落が形成されてきました。北部(柏の葉)は1931年に軍部都市と指定され各軍部都市機能が集積しました。1950年代に入り、東京のベッドタウン化が始まります。東京都心への通勤圏としての役割を果たし、駅周辺に生活の中心が移動、日本初の光ヶ丘団地をはじめ、柏駅周辺に様々な住宅団地が建設されました。
その後、1970年代から中心市街地に過密化と再開発が始まります。1973年の日本初の駅前再開発の完成、1979年から始まる柏の葉エリアの新しい拠点形成計画、国道6号線(1970年)と常磐自動車道(1985年)の開通により鉄道中心の都市から自動車中心の都市へと変化します。2001年から柏の葉エリア区画整理事業が本格化し、2000年頃からは川を中心に北部地域の工業と農業、中央部の商業というように2つの拠点時代になっていきます。

●柏市の都市計画上の特徴

宋:柏市は2つの駅周辺地区を中心に発展してきたように思えます。一方で2つの駅周辺は異なる成長背景や特徴を持って都市化が進んできました。

■柏駅周辺地区
  • 東京のベッドタウンとして時代的な必要性から再開発が行われてきた(自然発生的)
  • 空洞化や衰退の課題を抱えている
■柏の葉キャンパス駅周辺地区
  • 変換された空地の効率的な土地活用と常磐線の過密問題の解決策としてのTX線計画
  • 首都圏整備計画という国の政策から形成・成長(計画的)

●柏市のエリアマネジメント活動の特徴

宋:そうした2つの核地区の形成により、2つの異なるタイプの鉄道駅周辺地区エリアマネジメントが発展してきました。
A:柏駅周辺地区

  • 東京都心への通勤者の増加とベッドタウンの開発により発達
  • 商業活動を再活性化するために地元商店街が主体となった商業活性化型エリアマネジメント(地域活性化のための組織活動の体系化)
  • 1990年代のエリアマネジメントに向けた活動(柏駅周辺イメージアップ推進協議会)

B:柏の葉キャンパス駅周辺地区

  • 業務核都市として指定された影響と米軍基地の返還による空地の活用の観点により発達
  • 新しい試みを継続的に発信する実証実験型エリアマネジメント(コミュニティ中心の地域活動の増進)
  • 2000年代のエリアマネジメントの特徴を形成(公民学連携による組織活動のマネジメント、柏の葉アーバンデザインセンター)

●全国の中での柏のエリアマネジメント(表)

宋:全国のエリアマネジメントを類型分類したとき、柏は駅周辺再活性化型(柏駅周辺地区)とコミュニティ形成型(柏の葉)の2つに分類できます。

●時間軸による主体や手法の変化(グラフ)

宋:都市化のプロセス(形成期・成長期・成熟期)と都市規模の成長に伴い、マネジメントの主体や手法が変わってくるのではないかということがわかります。
柏駅は今後、都市規模の発展を見越してデザイン調整型の類型にみられるような駅周辺建築物の整備やルールの策定などを目指していくのか、駅周辺再開発型の類型にみられるようなハード整備や回遊性の向上を目指していくのか、または都市規模の衰退期を迎えて駅周辺資源活用型類型にみられるような地域資源を活かした地域問題解決の手法をとっていくのかをはっきりと考えていかなければならないと思います。

EX
  • 都市規模拡大…主体:地域住民、第3セクター、地権者、民間事業者が活躍
  • 都市規模縮小…主体:行政の役割が増加
EX
  • 都市規模拡大…手法:コミュニティイベント、ハード整備
  • 都市規模縮小…手法:地域資源を活かした空き店舗の活用などの地域問題解決

●類型別代表事例の比較(図)

A:駅周辺資源活用型
B:駅周辺再開発型
C:コミュニティ形成型
D:駅周辺再活性化型
E:駅機能強化型
F:デザイン調整型

●組織の構成と運営手法(図)

●空間活用における官民協働手法と課題(図)

3)成立条件からみた柏のエリアマネジメント

●「まちづくり」vs「エリアマネジメント」

宋:これまで「まちづくり」は都市計画の1つの潮流であり、商業活性化のための多様なイベント等、ソフト的案面を中心にして都市計画の不足の部分を補ってきたと言えます。
一方で「エリアマネジメント」は、今まで物質的な都市計画により整備され、拡充されてきた公園、広場、道路等の公共領域を中心に空き店舗、空地までの都市インフラをどう生かして活用するかという考え方がエリアマネジメントの役割であると考えています。

  • 官民共同のPPP連携
  • 既存の都市インフラをどのように使っていくのか?という時期になりつつある

→「つくることのプランニング」から「使いこなすプランニング」の必要性が高まっている。

  • 2011年改定の都市再生特別措置法にエリアマネジメントの概念が少しずつ導入している

●都市再生特別措置法に基づくエリアマネジメント支援制度

  • 都市再生整備推進法人(図)
    →まちづくり団体が国の指定を受け、エリアマネジメントや収益活動が可能になる法人
  • 道路及び河川敷地の専用許可の特例
    →道路管理者や河川管理者が指定した地区内では、公共空間の中でも広告版やオープンカフェ等を設置することが可能
  • 都市利便増進協定
    →地域の街づくりに関するルールを独自に作成し、エリアマネジメントを継続的に進めていく際に活用するための協定制度
  • 都市再生歩行者経路協定
    →借地権者、土地所有者等の全員による合意により定める協定で歩行者空間の整備や管理に関する方針や費用負担の方法を定めるもの

●エリアマネジメントの成立条件

宋:従来の都市計画と比べ、エリアマネジメントの成立に必要な条件をまとめました。

  1. 計画理念 「平等」から「競争」(地区間競争を前提)
  2. 活動目的 「公益」から「共益」(地区内の多様な主体の利益)
  3. 管理運用 「官治」から「自治」(責任を伴う、官民協働に基づく地域主体)
  4. 空間活用 「規制」から「利活用」(経済的効果と都市空間の活性化につながる原人空間の利活用)
  5. 財源調達 「依存」から「自立」(地区内の多様な主体による自律的財源調達)

●「柏らしさ」から地域ガバナンスへ

宋:「柏らしさ」とはみなさんどう思われますか?皆さんの意見を聞くと「人」がキーワードであることがわかりました。地域に誇りをもつ「人」を活かしたエリアマネジメントが柏の特徴と言えるのではないでしょうか?

  • それぞれの独自の活動があり、統一感がなく、ごちゃごちゃしていて楽しい。
  • 縛られていない。だからこそ考えたことが出来るまち。

    シビックプライドの醸成

    • 柏ならではのエリアマネジメントは「地域力」から


    地域ガバナンスへ

    • 個別の資産ではなく、群的な観点による地域経営
    • エリア全体を1つの会社としてとらえ、経済と自治の観点を導入した経営

●時代変化に合わせた柏のエリアマネジメント戦略

宋:ネット環境の発達や郊外型SCの登場により買い物だけには外に出ない時代を認識した戦略作りが必要だと考えます。

  1. 商品
    ネットショップ
    郊外SC
    中心市街地 独自なモノづくりへの転換・発信
  2. サービス
    ネットショップ
    郊外SC
    中心市街地 ??(どんなサービスが考えらるか?)
  3. 空間体験
    ネットショップ
    郊外SC
    中心市街地 空間デザインの重要性(ソフト含み)
    ex)駐車場とオープンスペースの利活用
■空間デザイン:参考資料
  1. 柏駅周辺地区における駐車場の収容台数現況(マップ)
  2. 柏駅周辺地区における駐輪場の収容台数と通行量(マップ)


宋:

  1. 時代の速度に合わせた空間プログラムマネジメントが必要
    →仮設方式の位置や屋台の可能性

    • 家賃を払って新しい自営業を始める時代は終わりつつある
      →新しいビジネスモデルの展開
    • 空き地や地上駐車場等を利用し、モノづくりの場として創造
      →PPPへの展開
    • オープンカフェでつながる街づくり(居場所の不足)
  2. 「柏の葉」エリアとの交通マネジメント

    • 機能の役割分担+公共交通ネットワークの充実
      →新しいビジネスモデルの展開
  3. 人口集積に向けた住環境整備等の空間計画マネジメント

    個別の資産ではなく群的な観点による地域経営
    →エリア全体を1つの会社としてとらえ、共益に基づく地元の自治によるエリアの経営

質問コーナー

質問1

  • 柏が業務核都市に向かうためには、都市に機能を集積させる手法が良いのか、広域都市と機能を補完していく手法があると思うが、どうお考えか?
  • 広域連携で機能補完が成功している都市事例はありますか?

回答 宋氏

  • 30km圏内にある柏は東京から自立していく方向で発展していくべき。
    柏の場合、松戸ではなく、柏の葉と連携していくべきではないかと考えます。
  • 成功事例としては福岡の博多・天神地区があげられるが、現在は博多の再開発に伴い天神が衰退気味であるという状況です。

質問2

  • 都市再生整備推進法人の事例についてもう少し詳しく聞かせていただきたい。

回答 宋氏

  • 北海道の札幌株式会社が有名な事例です。その他、川越や新宿モア街(道路占用特例の活用)事例があります。まだ2011年の改定から1~2年しか経過していないため成果の程度はまだ検証できていない。

質問3

  • 東京30km圏の中で鉄道駅周辺地区の都市を類型されているが、人口分布は考慮にいれているのか?

回答 宋氏

  • 今回はこれからの都市は鉄道駅を中心に発展すべくという仮説を基に検証したので、今後の研究課題としたい。

質問4

  • 東京30km圏の中で柏は業務核都市を目指すべきというお話があったが、他の拠点駅に比べ、柏駅周辺駅の人口は少ないがどのように発展すべきだとお考えか?
  • 体験空間づくりが必要だというお話だが、そもそもエリアのパイを広げていかなければならないのではないか?

回答 宋氏

  • 他の拠点駅に比べて人口集積が低いので、都市の機能を拡張する必要がある。
  • マクロの視点での空間密度を上げていくことと、ミクロの視点で空間利活用をしていくことは連携して考えていくべきだと思うが、まだエリアマネジメントの事例としては出て来ていないように思う。